[密やかな光彩]
#12.「終極からの兆し」の続きです。


「また派手に暴れたようだね?」
不貞腐れた顔をして執務室に入室して来た彼を見て、ロイが楽しそうに声
をかけると。

 「うっせーよ、大佐。じゃなかった、准将だっけ?」
 小気味良く返ってきた言葉の最後の質問にロイが頷き。
 「まだ、准将だがね…」
 少々不満そうに答えると、エドワードは「けっ」と、更に不満そうなしか
めっ面を見せた。


ロイが最後にエドワードに会ったのは2年前。
弟のアルフォンスの身体を取り戻し、銀時計を返却した彼に「いつでも顔
を見せにおいで」
と、伝えて帰らせたのだか。
 「あれから1度も顔を見せに来なかったではないか」
ロイも負けじと、しかめっ面でエドワードを見ると。
 「はぁ?社交辞令だろ!?また面倒臭い事言いやがって」

呆れた口調でそう言い返されたが、2人の間には2年の月日が流れていたも
のの、あの頃と変わらず特別な何かが今も存在していて。

懐かしい言葉の応酬に、自然と2人の口角は上がっていた。
 「取り敢えず、今回の始末書を書いてもらおうか」
 机の横に置いてあった紙の束をエドワードに差し出すと、彼は「うげっ」
と、あからさまに嫌な顔をした。

 「何で軍属でもない俺が、大…じゃなくて准将の所まで引っ張って来られ
て、始末書まで書くんだよ…」


アルフォンスは東回り、エドワードは西回りで、まだ兄弟の知らない知識
を学ぶ為、旅に出て数日。

エドワードは旅先で小さな事件に巻き込まれる形で大暴れしてしまい、そ
の地域の管轄の軍人にエドワードを知る者がいて、元後見人であるロイへ
と連絡が入り呼び出される結果となったのだ。


 「君は軍内では有名人だからね、何かあればすぐに私に連絡が入るのは仕
方ないだろう」

始末書は勿論、悪さをした子にはお仕置きが必要だと、楽しそうに声をか
ける男をジロリと睨み付ける。

小さなため息をはいてから、エドワードは応接用のソファーにどっかりと
座り、受け取った始末書を仕上げにかかった。


黙々とペンを走らせるエドワードをロイはじっと眺めつつ。
まず、あの頃よりずいぶん背が伸びたな、とか。
ふっくらとしていた頬は少しシャープになったな、とか。
金色の髪も伸び、筋肉質だった身体のラインもスラリと大人びたな、とか。

 「…おい」
ロイの思考を打ち砕くように、人の視線に鋭い彼が、机の上に頬杖を付く
男に非難の声を浴びせる。

 「さっきからジロジロ人の事見やがって、何か言いたい事があるなら言い
やがれ」

 噛み付くようにそう吐き捨てたエドワードに、ロイはにっこりと笑みを見
せてから。

「綺麗になったな」
「……は?」

 今の言葉が処理しきれず、ぽかんと口を開けてエドワードが固まる。
 「いや、想像以上と言うか、変わらない部分も勿論嬉しいのだがね…」
そう続けながら立ち上がり、一歩一歩彼に近付くと、ぽかんとしたまま見
上げてくるエドワードに苦笑いしつつ。

 「また君に会えて嬉しいよ、エドワード」
触れたかった彼の頬に初めて指を滑らせると、みるみるそこは朱色に染ま
り上がり。


これからの2人の関係が変わる事に、どちらともなく確信を持つ出来事と
なった。



2014-10-03

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